クラブ経営に新しい風を吹かす

今回はスポーツナビに連載されている「IT活用でJクラブは変わる」を読んでの話です。

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IT企業で活躍されていた「えとみほ」氏が栃木SCに転職し、前職の知見を活かしてITをクラブ経営に組み込んでいく話です。

栃木SCは今年2018シーズンにJ3からJ2に戻ってきたクラブの一つです。J2の予算レベルでもどちらかと言えば低い方に分類されます。

人的にも資金的にもリソースが限られたクラブでの話なのですが、資金の差はあれど、他のクラブにおいてもクラブの中身は大差がないことも多いのが実情です。

第1回に少しFAX文化の話が出ていますが、私もFAXを使っていることにびっくりした記憶があります。いまだに飛び交うFAXを見ていると慣れてしまっている自分とITツールから遅れを取っているなと思う自分に気がつきます。

メールにしても飛び交う数は非常に多く、処理に手間がかかります。

slackを導入する話はまさに業務の効率化に関するもので、栃木SCが遅れているのではなく、Jリーグ全体で遅れていると思われます。(プロ野球がどうなっているのかはきになるところですが)

サッカー業界自体がITにはかなり疎い存在なのかどのクラブにも最低限SNSは使いこなせる人はいるけれども、開発などは外部任せのところも多いです。そういった中でマーケティングツールとしてのITを活用するのは徐々に増えてきたと思いますし、実際に外部からも見えるので導入しているのはわかりやすいです。

今回話題にあげているslackにしてもwantedlyにしてもマーケティングツールというよりも内部向けのITツールです。他のクラブからは目につきにくいところです。

IT業界では便利なツールも存在を知らなければ意味がありません。クラブのIT担当の多くはマーケティングな位置付けで仕事をしており、人事や総務の観点で仕事はしていないことが多いです。そうなると視点はSNSなどの外部向けのツールに向いてしまうでしょう。

えとみほ氏のようにIT業界の“普通”をあらゆるサッカークラブに新しい風としてふかしてほしいと思います。

2017年度のクラブ経営規模と外国人枠撤廃に思う

Jリーグより2017年度のクラブ経営情報が開示されました。

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速報段階では浦和レッズが史上最高の経営規模になると言われていましたが、全クラブ出揃ったタイミングで見てみてもやはりトップの数字でした。

1.浦和 79億7100万円(J1)
2.神戸 52億3700万円(J1)
3.鹿島 52億2800万円(J1)
4.川崎F 51億2300万円(J1)
5.G大阪 49億6600万円(J1)
6.横浜FM 47億6500万円(J1)
7.名古屋 45億9400万円(J2)
8.FC東京 45億8800万円(J1)
9.清水 40億100万円(J1)
10.C大阪 39億7600万円(J1)
11.磐田 38億2800万円(J1)
12.大宮 36億8500万円(J1)
13.柏 34億5400万円(J1)
14.広島 34億2400万円(J1)
15.鳥栖 33億5000万円(J1)
16.新潟 27億6200万円(J1)
17.仙台 27億900万円(J1)
18.札幌 26億7600万円(J1)
19.千葉 25億9300万円(J2)
20.松本 19億9100万円(J2)
21.福岡 19億7900万円(J2)
22.京都 18億5700万円(J2)
23.甲府 17億2700万円(J1)
24.徳島 16億3900万円(J2)
25.東京V 16億2200万円(J2)
26.山形 15億7600万円(J2)
27.湘南 15億6600万円(J2)
28.岡山 14億3300万円(J2)
29.横浜FC 12億4400万円(J2)
30.長崎 11億2000万円(J2)
31.大分 10億2300万円(J2)
32.山口 10億1900万円(J2)
33.岐阜 9億5100万円(J2)
34.北九州 8億6400万円(J3)
35.熊本 8億4000万円(J2)
36.愛媛 7億6900万円(J2)
37.町田 7億900万円(J2)
38.長野 7億200万円(J3)
39.讃岐 6億9600万円(J2)
40.栃木 6億5800万円(J3)
41.金沢 6億5600万円(J2)
42.群馬 6億2400万円(J2)
43.水戸 5億7800万円(J2)
44.富山 5億3900万円(J3)
45.鹿児島 4億9600万円(J3)
46.鳥取 4億5800万円(J3)
47.沼津 3億6100万円(J3)
48.秋田 3億6000万円(J3)
49.福島 3億5900万円(J3)
50.相模原 2億8200万円(J3)
51.盛岡 2億8100万円(J3)
52.琉球 2億4100万円(J3)
53.藤枝 2億1000万円(J3)
54.YS横浜 1億9300万円(J3)

J1合計:734億7900万円(平均 40億8200万円)
J2合計:310億7900万円(平均 14億1300万円)
J3合計:60億400万円(平均 4億2900万円)

DAZNマネーの流入により上位クラブが大きくなり、知名度のある選手が加入する流れとなりました。

現状は外国人枠が設定されており、クラブの経営規模が大きくなると特定のスター選手に年棒を割り当てるか、選手の年棒をみな上げるかといった方向になります。マーケティング的には特定のスター選手を獲得したほうが話題性にもつながるのでイニエスタにしてもトーレスにしてもある意味ポジティブな傾向にあると思います。

そういった中でJリーグで議論されているのが外国人枠の撤廃です。

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大まかに言うと最大5人まで外国人を起用できるのですが、その上限を撤廃することでより試合のレベルを向上させる方向に持って行こうとしています。

この動きの背景には、

・レベルの高い選手とプレーする機会を増やし、日本人のレベルを高める(有望な若手の海外流出を防ぐ)

・特にJ1において質の高いプレーや選手を増やすことで世界レベルでのDAZN視聴者数を増やす

というあたりがありそうです。

JリーグとしてはDAZNの視聴者数を増やすことにかなり熱心ですので、クラブの有望な若手選手が海外に流出し、Jリーグの関心が薄れることを恐れています。

一方で選手の目線で考えると、海外に行く理由は高いレベルでのサッカーと高い年棒に価値を見出します。

DAZNマネーが入ったことで選手に(以前よりも)高い年棒を提供することは可能となりましたが、急速にJリーグの競技レベルが上がったわけではありません。競技レベルが上がらなければ、選手も多少年棒が低くても海外へと思うのは仕方ないところです。

近年のサッカーは一人の選手であらゆるシーンを解決できるほど甘くなく、11人全体のクオリティを問われるようになってきました。さらにITを活用で分析により穴を見つけるのが年々容易になっています。

こうなると一人の外国人選手にお金をつぎ込む以外の選択肢として複数人のややレベルが高い外国人選手でチーム全体のレベルアップを図るという方が若年層の強化よりもより早くリーグ全体のレベルを上げる手段だと思われます。

5大リーグ(イングランド、ドイツ、スペイン、イタリア、フランス)の次のグループに肩を並べるぐらいまでリーグのレベルが向上すれば有望な若手の流出は防げるのではないかと思います。そして、このレベルまで向上すれば世界レベルでDAZNの視聴者数は今の何倍にもなります。

グローバルなマーケティングの観点では外国人枠の撤廃は良い話だと思うのですが、懸念点もあります。東南アジアでJリーグが提携している国々の選手を起用できる制度が現在あり、札幌や広島、神戸などが東南アジアのスター選手を獲得しています。彼らは日本人選手より若干レベルが高い以外に、東南アジアからの関心を集めています。

もし外国人枠を撤廃した時に東南アジアの選手たちは引き続き残ることができるかが問題になります。Jリーグの東南アジアでマーケット拡大に貢献している制度が意味をなさなくなり、東南アジアのスター選手がいなくなればJリーグの関心も薄れることでしょう。

個人的には、東南アジアで築いてきた地位は捨て難いと思います。いきなり外国人枠を撤廃するのではなく、人数を増やすことや東南アジアの選手の契約を優遇する制度など段階的な成長が必要じゃないかと思います。