【天皇杯】誰でもわかる名古屋グランパスと奈良クラブのPKやり直しのポイント(動画とルールの説明あり)

メディアはすっかりワールドカップ一色のはずが、6月6日に全国各地で行われた天皇杯2回戦「名古屋グランパスVS奈良クラブ」でご存知の通り、PKのやり直しの裁定が日本サッカー協会(JFA)から発表されました。

www.jfa.jp

PKやり直しの発表があるまでの出来事

今回PKやり直しになったまでの出来事を整理すると、下記のようになります。

6日(水):天皇杯2回戦でPK戦の末に名古屋に勝利
7日(木):観客(審判3級資格保有者)から「新ルールが適応されていない」とJFAへ指摘が入る
8日(金):JFAから「レフェリーの適応ミスがあり奈良クラブの敗戦」と連絡が入る。同日夜、JFAから3名が奈良へ派遣されてクラブや選手に直接説明

(中略)

11日(月):JFAから「PK戦のやり直しが決定された」と連絡が入る、JFAも会見を開く
12日(火):JFAが臨時の審判委員会を開き、当該選手のキックが反則ではなく正当なものだという最終見解を示す

headlines.yahoo.co.jp

PKでの出来事をおさらい

ABBA方式のPK戦で実施され、

奈良クラブ2(2/3成功)−4(4/4成功)名古屋グランパスの状況で

奈良クラブ4人目のキッカーとして金久保選手の出番となりました。

金久保選手が失敗すると奈良クラブの負けが決まるシーンです。

※ABBA方式であることと、動画によって一番最初の奈良クラブのキッカーが写っていないことがあり、順番の混乱を招いているようです。

話題になったPKは動画で見ると下記になります。

www.youtube.com

奈良クラブの背番号40の金久保選手が助走の際にケンケンするようなモーションを取り、シュートを打ち、ゴールに決まりました。

youtu.be

シュートが決まったあとですが、名古屋グランパスのGKランゲラック選手が審判に対し、おかしいのではないかというジェスチャーを見せつつ、審判は同時に金久保選手に蹴り直しを命じます

その後、金久保選手は蹴り直しでもシュートを決め、最終的に奈良クラブが逆転で勝利します。

何が問題になったのか?

試合の翌日にJFAに問い合わせが入った内容を簡単に説明すると、

金久保選手のPKについて審判がやり直しを命じているが、規則では失敗扱いにすることと警告を出すことが正しいのではないか

ということでした。

サッカーの競技規則(2017-2018)に照らし合わせますと、

競技規則 | 日本サッカー協会

http://www.jfa.jp/documents/pdf/soccer/lawsofthegame_201718.pdf

10条 試合結果の決定(P.88 一部抜粋)

主審がキックを行うよう合図した後に犯した反則でキッカーが罰せられる場合、そのキックは失敗として記録され、キッカーは警告される。

14条 ペナルティーキック(P.110 一部抜粋)

競技者が一度助走を完了した後、ボールをけるためにフェイントをする(助走中のフェイントは認められる)。

という項目に該当します。

審判は金久保選手の助走について不正なフェイントとして反則だと判定したところで、正しくは金久保選手のキックを失敗扱いにすべきでした。

金久保選手の蹴り直しの機会はなく、失敗扱いにすると奈良クラブはその時点で敗退が決まります。

JFAからの通達は最初、奈良クラブを敗退扱いにするという内容だったのは、審判の適用ミスによって存在しない続きのPKが行われた結果は無効にするということに起因していると思われます。

なぜPKやり直しになったのか

ここまでは多くのメディアが報じているのですが、時系列の説明のようにやり直しの発表があった翌日に審判委員会の見解で金久保選手のPKの助走はルールの範囲内であるという発表が出てきます。

つまり金久保選手の助走は不正ではなくルールに認められた正しいものであったということです。

改めて動画を見ると

www.youtube.com

金久保選手が助走の際にケンケンするようなモーションを取り、シュートを打つ過程において助走からシュートまで止まっていません。

14条 ペナルティーキック(P.110 一部抜粋)

競技者が一度助走を完了した後、ボールをけるためにフェイントをする(助走中のフェイントは認められる)。

という項目に該当しないと、誤審であることを公表しました。

www.nikkansports.com

改めて整理するとこのPKでの起きた問題は二つあります。

1)金久保選手の助走を「不正なフェイント」として判定したこと:誤審

2)不正なフェイントへの罰則として蹴り直しを命じたこと:規則の適用ミス

ここから発生する事象は

A:1)の誤審がなければ、2)の規則の適用ミスは発生しません。

B:1)の誤審が発生するも、2)において正しく規則を適用し失敗とする。

C:1)の誤審が発生し、2)の適用ミスも発生し、蹴り直しをする。

になります。

今回の試合で起きてしまったケースは、Cに該当します。

審判は誤審をし、規則の適用も誤る2重のミスを起こしています。

そして日本サッカー協会は、問い合わせを受けてBの選択に戻るべきと考えました。

と同時に1)の事象にも気がつき、本当はAの選択が理想だがAとBでは勝者となるチームが異なり、国際サッカー評議会(IFAB)に問い合わせをします。

問い合わせの結果PKやり直しという判定を下せることを知り、やり直しの判定を下したということになります。

誤審と適用ミスの違い

やり直しよりもAの解釈を尊重し、奈良クラブの勝利にしたほうがいいのではないかという考えに至りたいところですが、サッカー界のルールで「審判の判定を尊重する」というものがあります。

語弊を恐れずに言えば、審判が白い物を黒だと言えば、黒にするという具合です。もちろん後日、審判には処罰があるでしょうが、試合の記録は訂正しないのがポイントです。

一方で競技規則の適用ミスについては遡れるようで過去にも途中からやり直したり再試合の判定が下せるようです。

www.soccer-king.jp

このあたりの加減については、なかなか難しいところですが、誤審も全て再試合ややり直しの対象にするとサッカーそのものが成り立たなくなる恐れもあります。

一方で適用ミスならば戻れるというのも説明が難しいところです。

そもそも論になると誤審もなく規則の適用ミスがなければこんな問題は起きなかったということでロシアワールドカップではVAR(ビデオ判定)が導入されています。

審判の見逃しや誤審防止に一役買っていますが、導入したらしたで物言いがつくのもなかなか厳しい世の中だと思います。

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